短編小説・「俺はフェチズムを満たしてるぜ、あんたは?」
「あっ!」
ハゲの店長は俺の顔を見るなりびっくりしてる。なんでびっくりするんだ?つい二ヶ月前に来たじゃねえか。それとも客として俺が好きなのか?
いや、どいつもこいつもコロナウィルスの事を深く切り刻むように調べねえでーーーーーーいや、あいつら分かってて自粛しろって言ってんだ。
今日、ポリッシャーをかけていると社長が、今日から二十七日まで札幌市に強めの自粛要請が出たと、臭い息で俺の耳元まで近づいて囁いた。
俺のフェチズムは臭いだ。ギャップだ。簡単に言いや、「この人、美人なのに、どうして足・・・・・・臭いの?」とか、「この人、美人なのに、どうしてワキガなの?」っていう、ま、つまりギャップってわけ。うちの社長のハゲと脂ぎった顔、存在そのものがコレステロールって奴はアウト。セーフは、結構可愛いとか、やっぱ美人とか。
ちょっと話を逸らしていいか?
俺はもう年なんだが、若いバイトの奴にわざと訊くんだ。「野球拳って知ってるか?」ってさ。バイト君は阿呆ヅラ下げて目玉が落っこちるぐらい下げて、唇を歪める。野球・・・・・・ケン・・・・・・
「おまえ、今、試合の野球考えてるべ?」
「はい。ケンってなんすか?」
「拳っていう字」と言って俺は右手でポリッシャーを支えながら左手で拳を作って見せた。
「野球・・・・・・拳・・・・・・」
バイト君の目玉がますます、いや、ホントに落っこちって、こいつの顔が肉つきのスカルになるんじゃねえかってぐらい眉間の力で目玉を落としてる。バイト君が「拳」と呟いた、そのすぐ後に社長が、おら兄ちゃんサボるなと注意した。
こいつの存在コレステロールがセーフ、アウトって書いたもんだから、前置きがえらく長くなっちまった。
俺の給料は安いよ。清掃だからさ。でも家賃は東区共同玄関共同トイレ風呂なしで二万。